種苗法とは?改正案の実態や農家が受ける影響などを解説
政府は国内の優良品種が海外に流出する事態が相次いだことを受け、特別品種の自家増殖に制限をかけることなどを盛り込んだ種苗法改正案の成立を目指しています。今回は種苗法改正の概要や背景、農家が受ける影響について紹介しましょう。
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一度は国会成立が見送られ、著名人がSNSで取り上げたことでも話題になった種苗法の改正案。その内容は農業従事者の間でも十分に周知されているとは言い難く、誤った認識も広がっている状況です。
そこで本記事では、種苗法改正案の具体的な内容や改正に至った背景、反対派の意見、改正によって農家が受ける影響や想定される問題点などを解説します。
目次
種苗法とは
種苗法とは、植物の新品種を開発した人が、その利用権を独占できるとした法律で、いわば種子の著作権のようなものです。
日本の種苗法の歴史は、1947年に制定された農産種苗法に始まります。その後1961年、欧米が品種育成者保護のために「植物の新品種の保護に関する国際条約(UPOV条約)」を締結し、日本はこれに加入するため、1978年に農産種苗法を全面的に改正して現在の種苗法がつくられました。
一般品種と登録品種
農作物の品種には一般品種と登録品種とがあります。種苗法を正しく理解するためには、一般品種と登録品種の違いを知る必要があります。
一般品種は、在来種や登録されていない品種、登録期限が切れた品種に該当し、農林水産省によれば、野菜や果物の9割近くが一般品種です。
一方の登録品種とは、都道府県の試験場などで多くの費用と時間、労力をかけて開発した新品種を指します。植物の新品種を開発した人や法人には、知的財産の1つである育成者権が与えられ、25年(果樹などは30年)はこの権利を保持できるルールです。
(参照元:https://www.maff.go.jp/j/council/sizai/syubyou/18/attach/pdf/index-13.pdf)
種苗法改正の趣旨
現行の種苗法では、適正な手段で購入した登録品種であれば海外へ持ち出すことが可能です。しかし、今回の改正案が可決された場合、登録品種を輸出できる国や国内の地域が指定され、それ以外の国や地域に持ち出せなくなります。
また、農家が登録品種を自家増殖する際には、育成権者の許諾が必要です。対象はすべての植物の登録品種で、イチゴの「あまおう」や米の「つや姫」、さつまいもの「紅はるか」などがその一例です。
これは、種苗を開発した育成権者(地方公共団体・個人)の権利を守り、海外流出を防ぐことを目的とするもので、政府はこの改正案によってより優れた品種開発の促進を目指しています。
勝手に自家増殖をすると罰則の対象に
種苗法が改正された場合、登録品種を育成権者の許可なく営利目的で栽培・販売したり、指定されていない国や地域に持ち出したりすると、育成権を侵害したとして刑事罰の対象です。故意犯であれば10年以下の懲役もしくは1万円以下の罰金、法人の場合は3億円以下の罰金が処せられます。
また、販売差し止めなど民事請求を受けたりする可能性もありますので、必ず事前確認を行うことをおすすめいたします。
(参照元:https://www.maff.go.jp/j/kanbo/tizai/brand/b_syokubut/pdf/130325tekiseiriyou.pdf)
種苗法改正の背景
種苗の品種開発や改良には大きな労力と莫大な費用がかかり、期間にして5〜10年という莫大な時間を要することもあります。開発に投じたコストを回収するためには、種苗が多くの農家で利用される必要があり、採算性を確保するのは容易ではありません。
しかしながら、種苗の中には簡単に自家増殖できる品種も多くあり、育成権者の侵害は簡単に起こり得るものです。そこで政府では、種苗法の改正を重ねるごとに育成権者の保護を徐々に強化してきました。それでも、国際社会に比べると日本における種苗の知的財産権の保護は大きく遅れています。
その結果、国内で開発されたブドウやイチゴ、サクランボなどの優良品種の苗木が外国に流出し、日本に逆輸入されたり、他国で産地化されたりするような事態が発生しています。このような背景から今回の種苗法改正には、国内における種苗の流通を管理することで、海外流出や指定地域以外での無断栽培を抑止する狙いがあるのです。
種苗法改正についての誤解
種苗法の改正を巡っては、多くのメディアや著名人が取り上げたことで、SNS上でも大きな話題を呼びました。発信された意見の中には、法改正への理解不足から誤った認識をもっている人も少なくありません。
自家採取が一律禁止されてしまうという誤解
よくある誤解としては、農家による種苗の自家増殖が一律禁止になるというものです。今回の法改正で対象になるのは登録品種のみであり、一般品種は今後も自家増殖が認められています。
また、登録品種であっても許諾を受ければ自家増殖は可能です。また、許諾が必要になるのは市場向けに栽培する場合のみで、家庭菜園や農家が自分たちで消費するためであれば、自家増殖を行う際も許諾を受ける必要はありません。
登録品種の自家採取は限定的
登録品種の自家増殖は、農家にとっても主流の栽培方法ではありません。登録品種のほとんどは、F1種という異なる親の交配によって生まれるハイブリッド種です。F1種の自家増殖は手間がかかるだけでなく、初代の品質を保つことが難しいことから、二次利用には不向きとされています。
また、根菜や葉物野菜のように根や葉を収穫する品種は、種ができるまで待っていると次の作物を植えられず栽培効率が悪くなります。そのため、種苗を購入して栽培する農家がほとんどで、自家採取する農家は限定的です。
反対派の意見
種苗法改正の実態を正しく把握したうえで、今回の改正案に異議を唱える声もあります。政府の見解では、国内の農家を保護し、新品種の開発促進に寄与するとされている種苗法改正ですが、その一方で農家への悪影響が懸念されているのも事実です。
自家増殖を禁止しても種子の海外流出は防ぎきれない
今回の法改正は、新品種の種苗が海外に持ち出されて利用されるのを防止するためのものです。しかし、それには海外での品種登録が最も有効で、農家に種苗の自家増殖を禁止するだけでは不十分だとする意見もあります。
在来種が駆逐される可能性がある
今回の種苗法改正では、在来種の自家増殖については制限していません。企業が在来種をベースに新品種を開発した場合、品種登録をすることは可能です。仮にその新品種が在来種よりも優れていれば、新品種を栽培する農家が増え、在来種が駆逐されていく可能性も考えられます。
在来種が減少すれば品種の多様性は失われ、国内で栽培される品種は民間企業が提供する種苗に限定されかねません。その結果、種苗の価格は高騰し、自然災害や気候変動があった際、その年の作物が全滅するリスクを分散できなくなるでしょう。
農家の自家増殖の権利が制限される
種苗の知的財産権が強化される一方で、農家が自家増殖を行う権利は一定の制限を受けます。前述の通り、野菜農家は自主採種を行っていると効率が悪いため、種苗を購入して栽培するケースがほとんどです。
しかし、イモやイチゴ、サトウキビのような多年生の作物は少し事情が異なります。イモやサトウキビなどは収穫物の一部を残してそこから増やしていくのが一般的です。一方、イチゴなどの場合、親株から出るランナー(走出枝)という子株を作って栽培しています。
つまり、これらの作物を栽培している農家にとって自家増殖は不可欠なものであり、種苗法が改正されれば、農家にかかる種苗代の負担が大きくなることが予想されます。
多国籍企業による種子の支配が進む
一部のメディアや識者、農業関係者の間では、後述する種子法廃止や農業競争力強化支援法の制定、種苗法改正という一連の法整備は、TPP協定の締結に向けたもので、海外の巨大バイオ企業に誘導されたものだとの指摘もあります。
現在、バイエルなどの巨大バイオ企業は中小の種苗会社を次々と買収し、世界の種苗市場でシェアを拡大中です。
こうしたバイオ企業が国内の種苗会社を買収したり、国内の品種を改良して特許を取ったりするようになれば、これまで安価で入手できていた種苗の価格は高騰し、国内農家の経営を圧迫する可能性も否定できません。
種子法廃止と農業競争力強化支援法との関連性
種苗法の改正は、種子法の廃止と農業競争力強化支援法の成立とセットで語られることがほとんどです。そこで、この3つの法律の関連性を確認しておきましょう。
種子法の廃止
種子法とは戦後の食糧難を背景に、主要作物である米や麦、大豆の種子を安定して生産するために制定された法律です。政府は2017年3月、現代においてはその役割を終えているとして、この種子法を廃止しました。
しかし、実際の狙いは上記3品目の種子事業において、民間企業と地方自治体が平等に競争できるようにすることだとされています。
種子法では、上記3品目における都道府県の種子生産を国の財源によって賄っており、民間企業が参入するには不利な状況でした。しかしその分、自治体は収益性よりも地域農業への貢献を第一に事業を展開し、農家は優良な種苗を安く買うことが可能だったのです。
種子法の廃止と今回の種苗法改正によって、自治体は民間企業との営利競争を余儀なくされることになります。国内企業だけでなく、より大きな資本をもつ外国企業にとっても参入のハードルが下がったといえるでしょう。
(参照元:https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/info/attach/pdf/171116-22.pdf)
農業競争力強化支援法の制定
2017年に裁定された農業競争力強化支援法は、国内の農業が持続的に発展していくために、良質で安価な農業資材の供給や流通の合理化を行おうとする法律です。
それに加えてこの支援法には、自治体の公的研究機関の研究成果を民間企業に提供し、官民で種子の新品種開発や生産を促進する、という趣旨の条文も含まれています。これは種子法の廃止と同様、民間企業の参入を促す性質のものであり、外国企業にも国内農業への門戸を開くことになる法律ともいえます。
(参照元:https://www.maff.go.jp/j/kanbo/nougyo_kyousou_ryoku/sienhou/attach/pdf/index-67.pdf)
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まとめ
種苗法の改正は、国内の優良品種が海外に持ち出される事態を抑制し、種苗を開発した人の育成権者を守ることを目的としたものです。しかし、優良品種の海外流出を防ぐには自家増殖の制限だけでは不十分という声もあります。
また、国内の種苗市場に海外勢力が参入しやすくなるなどの懸念もあり、農業従事者の間でも法改正への理解が進んでいるとは言い難い状況です。そうした問題を含め、今後の政府の対応に注目が集まっています。