農地所有適格法人とは|設立方法からメリットやデメリットを解説
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最近は、法人が農業へ参入することも多くなってきています。しかし、どのような法人でも農地を取得できるわけではありません。
農地を購入できるのは、「農地所有適格法人」の要件を満たすだけであり、以前は農業生産法人と呼ばれていました。
誰でも農地所有適格法人になれるわけではなく、場合によっては新たな法人設立、事業内容の大幅な変更が必要です。
今回は農地所有適格法人についてだけではなく、設立するメリットやデメリットなども解説していきます。
目次
農地所有適格法人とは
最初に農地所有適格法人について解説します。認められるための要件も一緒に確認していきましょう。
法人として農業を営む
「農地所有適格法人」という名称は、聞いたことのない人が多いでしょう。以前は農業生産法人という名称で、2016年に名称が変更されています。
簡単には農業を中心に営む法人になります。ただし、農地所有適格法人は設立するものではありません。
農地取得の際に要件を満たすことで、農地所有適格法人として認められます。
法人設立時には農地所有適格法人ではなく、農地を取得して初めて農地所有適格法人となります。勘違いが多いのでご注意ください。
農地所有適格法人の要件
農地所有適格法人となるためには、要件を満たす必要があります。全部で4つに分類されます。
法人形態要件
法人形態の要件は、農事組合法人か株式会社、持分会社(合名会社、合資会社、合同会社)のいずれかであることです。株式会社は非公開会社でなければいけません。
非公開会社は、定款で株式の譲渡制限があり、譲渡や取得には会社の承認がいるといった内容です。また、現在では設立できませんが、有限会社も含まれます。
農事組合法人の場合でも、主な事業が農業でない場合には要件に当てはまりません。
事業要件
事業要件は、法人としての主な事業が農業であることです。「農業のみ」ではなく、3年間の事業全体売上のうち、農業による売上が過半数を占めていれば問題ありません。
他の事業を行いながら農業に参入することも十分に可能です。
構成員・議決権要件
基本的には構成員のうち、農業関係者が総議決権の過半数を占めることで要件が満たされます。
また農業や関連事業には、年間150日以上従事しなくてはいけません。
役員要件
- 役員の過半数が農業や関連事業に常時従事する構成員であること
- 役員か重要な使用人のうち1人以上が農作業に年間60日以上従事すること
農業や管理事業とはありますが、事務作業などは関連とみなされないため、基本的には農作業となります。
農地所有適格法人を設立する方法
農地所有適格法人を設立する方法を解説します。
設立自体は通常の法人と同じ
農地所有適格法人の設立は、一般的な法人設立と同じ方法です。
- 費用の目安:25万円から30万円ほど
あくまで事務的な手続きに関してだけなので、専門家へ設立の代行を依頼した場合には料金が上乗せされます。
また、法人の設立は自分でもできます。ただし手間の削減を考えると、専門家への依頼が無難でしょう。
手数料も高くはなく、定款を電子で作成できる専門家であれば、定款の印紙代が不要になります。
手続きの流れ
農地所有適格法人となるのは、農地を取得してからです。法人を設立した際に農地所有適格法人になるわけではなく、農業委員会の許可を得て農地を取得した際に農地所有適格法人となります。
農地を取得すると、農地所有適格法人が農地を取得した状態となります。
農地所有適格法人になるために手続きを行うのではなく、農地を取得したら農地所有適格法人になるというイメージです。
報告書の提出義務がある
農地を農地所有適格法人として取得した場合、農地を所有している間は農業委員会への報告義務が発生します。
毎年事業年度の終了から3ヶ月以内に報告書を提出しなければいけません。
提出時に農地所有適格法人としての要件を満たしていなかった場合、罰則の可能性もあるため十分に注意しましょう。
農地所有適格法人のメリット
農地所有適格法人になると、様々なメリットがあります。
農地を取得できる
一般企業が農業に参入したくても、要件を満たしていなければ農地の取得ができないため、参入できずに諦めることになります。
農地所有適格法人の要件を満たせば農地を購入できるため、農業参入を考えるのであれば必須とも言えます。
賃借であれば農地所有適格法人は不要
農地を取得することは農地所有適格法人しかできません。ただし、賃借に関しては一般法人でも可能です。
下記の条件を満たした場合には、農地所有適格法人の要件を満たしていない一般法人でも農地を借りられます。
- 賃借契約に解除条件を追加する
- 適切な役割分担をして農業を行う
- 業務執行役員か重要な使用人1人以上が農業に常時従事する
解除条件は、農地を適切に利用しない場合に契約解除することです。農地は日本にとって重要な土地のため、農業以外で使用されないようにしています。
普通に農業を行うのであれば問題はありませんが、契約書には契約解除の条件を追加しなければいけません。
農業は1人で行うものではなく、地域に密着して行うものです。集落での話し合いや水路の維持活動など、地域に入り込んで農業を行わなければいけません。
また農作業だけではなく、経営や企画でも大丈夫です。つまり、役員や重要な構成員が一切農業に関わらないのであれば、賃借はできません。
補助金の採択率が上がる
農業に関わる補助金や交付金の中には、農地所有適格法人であれば優遇されるものがあります。
農地所有適格法人を含む団体が対象とされている、「強い農業・担い手作り総合支援交付金」が有名です。
このように補助金の対象となるだけではなく、場合によっては採択率が上がる場合もあります。
ただし補助金は毎年内容が変更されるため、一概に農地所有適格法人であることが優先事項とはなりません。
それでも農地所有適格法人は積極的に農業の発展に貢献しているため、採択率が上がる可能性は高くなっています。
税制面の優遇
法人は個人と比べて、税制面で有利になります。これは、農地所有適格法人に限った話ではなく法人全てです。
個人であれば所得税を支払い、法人は法人税を支払います。
個人の所得税は、所得が上昇するのに合わせて税率も上がります。法人税の場合、区分はあるものの税率は一律です。
ただし、必ず個人よりも法人のほうが税制面で有利というわけではありません。所得によっては、個人の所得税のほうが低い場合もあります。
計算をして「法人のほうが税制面で有利」と判断した場合には、法人化するとよいでしょう。一般的には、年間の所得が600万円から800万円ほどであれば、法人化したほうが税金は安くなります。
社会的信用度
社会的信用度は、個人よりも法人のほうが高くなります。例えば、商品の販路拡大であっても法人のほうが取り合ってもらいやすいでしょう。
また農地所有適格法人は、農地を拡大したい場合にも効力が大きくなります。農地を手放したい人も、個人より法人のほうが安心感は高く、農地所有適格法人であれば尚更です。
農地所有適格法人のデメリット
農地所有適格法人には、メリットばかりではありません。農地所有適格法人として継続するためには条件があり、デメリットに感じる場合もあります。
農地所有適格法人の要件を満たし続けなくてはいけない
農地所有適格法人は法人を設立した際になるものではなく、農地を所有した際に農地所有適格法人となります。つまり、取得した農地を手放した場合には、一般法人に戻ります。
農地所有適格法人として農地を所有し続けるには、最初に解説した「農地所有適格法人の要件」を満たし続けなくてはいけません。
報告書の提出義務がある
農地所有適格法人となった場合には、毎年報告書の提出義務があります。毎年の事業年度終了から3ヶ月以内に「「農地所有適格法人報告書」を提出しなくてはなりません。
報告書に記載する内容は5つです。添付書類は地域によって異なります。
例えば、定款の写しや従業員名簿などです。農地所有適格法人の要件を満たしているかの確認に必要な書類と考えましょう。
- 法人の概要
- 事業の種類
- 売上高
- 構成員全ての状況
- 理事や取締役、役員全ての状況
報告書のフォーマットは決まっておらず、内容さえ漏れがなければ自由に作成可能です。
ただし農林水産省や各地域の農業委員会が、農地所有適格法人報告書のフォーマットを用意していることもあります。まずは、申請先の地域で調べてみてください。
農地所有適格法人を設立して失敗しないために
農地所有適格法人を設立して、失敗しないために必要なことを解説していきます。
農業のノウハウを持った人材を確保する
これまでに農業を営んできた人が、農地所有適格法人を設立する場合には関係ありません。ただし、未経験から始める場合には注意しましょう。農業は決して簡単な事業ではなく、収益を得るためには技術が必要です。
新規事業として未経験の農業に参入するのであれば、農業のノウハウを持った人材を確保します。1人も農業に精通した人材がいない場合、農業での収益化は難しくなります。
1人でも技術を持った人材がいると、事業を拡大していくことも十分に可能です。
安定した収益までは時間がかかる
農業は作物を栽培して販売するため、収益化までに時間がかかります。また、その年の気候などにも左右されるため、安定した収益を確保するためには数年かかるでしょう。
1年目から大きな収益を予想している場合には、予想と異なる結果になるかもしれません。事業として成り立たせるためには、長く農業を続ける必要があるため、短かすぎる収益目標は危険です。
自然災害のリスクを考えておく
農業は自然災害の影響を受けやすく、収益が大きく変化します。露地であれば台風だけではなく、雨や日照りが続けばうまく栽培できません。
またビニールハウスでも、台風などによって破損し、高額の修理費が発生することもあります。
事業の中でも自然災害によるリスクが多い業種になるため、収益の変化や出費を考えておく必要があります。
農業施設の破損によって廃業に追い込まれる農家は多いため、計画性を持った営農が必要です。
まとめ
農地所有適格法人は農地の取得が可能です。しかし、農地所有適格法人になってから農地を所有するのではなく、要件を満たして農地を所有すると農地所有適格法人となります。
4つの要件を満たす必要はありますが、法人として農業経営を考えているのであれば必須の方法でしょう。ただし、メリットばかりではなく、デメリットもあります。
農地所有適格法人を考える場合には、必要かどうかの見極めが必要です。今回の記事を参考に、農地所有適格法人となるべきなのかを検討してみてください。