農薬の危険性・安全性について|「農薬が危険」は思い込み?向き合い方を考えよう
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野菜や米など、多くの農作物の栽培で使われている「農薬」。
近年では食品や環境への残留が問題視され、「農薬は人にも環境にとっても悪である」と過剰に危険視されています。
はたして、農薬はそこまで危険なものなのでしょうか。
本記事では、農薬の危険性と安全性について、もともと農業に従事していた筆者が解説します。
目次
農薬とは
農薬とは、農林産物に悪影響を与える菌やウイルス、害虫、雑草などを防いでなくすための薬剤です。
病害虫などを防いでなくすだけではなく、農作物の生育促進・抑制に使われるものや、病害虫の天敵となる生物・微生物も農薬として扱われます。
【10種類の農薬】
- 殺虫剤
- 殺菌剤
- 殺虫殺菌剤
- 除草剤
- 殺そ剤
- 植物成長調整剤
- 誘引剤
- 展着剤
- 天敵
- 微生物剤
出典:農林水産省
これらの農薬が、ある基準値以上に食品に付着していたり環境中に残っていたりすると、近年問題視されている「残留農薬」とみなされます。
ここでは、農薬が必要な理由と残留農薬を回避するための有機・無農薬野菜について詳しく解説します。
農薬が必要な理由
農作物に悪影響を与える病害虫を防ぐには、農薬を使う以外にもさまざまな方法があります。
【病害虫の防除方法】
- 耕種的防除:輪作や土壌改良、抵抗性品種など
- 物理的防除:マルチやトラップ、土壌消毒など
- 生物的防除:天敵や微生物など
- 化学的防除:農薬、交信かく乱剤など
農薬以外の防ぐ方法があるにも関わらず、農薬が主流なのは生産効率の高さに理由があります。
農薬を使わない方法では、次々に伸びる雑草の管理、病害虫の被害を最小限に抑える工夫など、多くの労力・手間・時間をかけて栽培します。それでも品質のいいものを安定的に収穫することは、非常に難しいのが実状です。
例えば、すべての農薬を使用禁止にしたらどうなるでしょうか?
おそらく日本人口の食料をまかなうことは不可能でしょう。野菜の価格は大幅に上がり、一部のお金持ちしか食べられない高級品になります。
そうなれば当然野菜を買えない人も続出し、栄養不足による病気リスクなども急激に伸びるのではないかと考えられます。
現代の日本農業は農薬を使うことで、品質のいい農作物を安定的に生産し、人々の健康を支えています。
そのため、農薬が少ないほうがいいことは確かです。ただし、完全な悪ではないということを理解しましょう。
有機・無農薬野菜について
近年残留農薬を避けるために注目を集めているのが、有機野菜・無農薬野菜です。
普通の野菜と比べると農薬はかなり抑えられているため、農薬が気になる方にとってはいい選択肢なのではないでしょうか。
ただし、有機では認められた農薬や動物のフンを原料とする有機肥料が利用でき、無農薬では化学肥料も問題なく使えます。
そのため、かならずしも「有機・無農薬=安全」とは言い切れないことを理解しておきましょう。
有機(オーガニック)野菜とは
有機野菜とは農林水産省の「有機JAS規格」を満たし、認定を受けた野菜です。別名「オーガニック野菜」とも呼ばれています。
遺伝子組み換え技術を利用していない、また農薬・化学肥料を2年以上(多年生植物は3年以上)使っていない畑で収穫した農作物が条件です。ただし、有機JAS規格で認められている農薬は使用可能です。
無農薬野菜とは
無農薬野菜とは名前の通り、農作物の栽培期間中に農薬をまったく使わずに作られた野菜です。
ただし「土壌に残った農薬や周囲の畑から飛んでくる農薬など、農薬が一切含まれていない」と誤解する消費者が多く、現在は「無農薬」の表示は禁止されています。
なお、無農薬野菜では、化学肥料の使用は特に制限されていません。
農薬の危険性
農薬に対して、多くの人が「農薬は、人や環境にも悪影響」だとイメージを持っているのは、一昔前のなごりだと考えられます。
戦後の日本ではDDTやBHCなど環境中に長く残留し続け、さらには人体にも悪影響を及ぼす可能性のある農薬が使われていました。
しかしそういった危険な農薬は数十年前にすでに禁止されており、現在ではまったく使用されていません。
それでは現在の日本農業で使われている農薬は、人体や環境に影響が出るのでしょうか。
人体への影響
食品などに付着した農薬が、人体に影響を及ぼすことはほとんどありません。
なぜなら、農薬は人体に影響が出ないよう、使える回数・濃度・作物・時期などの使い方が定められているからです。
「影響さえ出なければ摂取しても問題ない」と理屈っぽく聞こえるかもしれません。しかし、そもそもこの世の全物質の安全性は、摂取する量で決まります。
例えば、身近にある砂糖やコーヒーなどの食品や頭痛薬などの飲み薬、これらも大量に摂取すれば人体にとっては毒です。一歩間違えれば死に至ります。
このように天然物でも人工物でも、人体に影響が出ない量で普段から使っているのです。
農薬であっても変わりなく、たとえ食品に残った農薬を摂取したとしても、人体への影響はほとんどありません。
環境への影響
現在使われている農薬は、環境への影響も限りなく少ないと言えます。
農薬として登録される前に、あらゆる環境への影響を試験し、基準値以上の影響が確認されたものや、分解に長時間かかるものは農薬として認めていないからです。
【農薬による環境汚染の可能性】
- 大気汚染
- 水質汚染
- 土壌汚染
- 生態系への影響
上記のように大気・水・土壌の汚染が懸念されています。ただし太陽の光や微生物などにより、ほとんどが分解されるとの研究結果も出ています。
また生態系に関しても、農薬登録の際に、鳥類・益虫・水産動植物に対する影響も検査されています。
そのため、農薬による環境への影響は最小限であると言えるでしょう。
もし環境汚染が原因で農薬が廃止されるとしても、人間の住環境や生活排水システムの見直し、CO2問題の改善が先になるでしょう。
農薬の安全性
農薬の安全性は、どのように確かめられているのでしょうか。
登録される農薬は36の試験をクリアしたものだけ
農薬の安全性は、農薬取締法に基づいた「農薬の登録制度」で確認されています。
農薬の登録制度とは、農林水産省に認められた農薬だけが、製造・輸入・販売・利用できる仕組みです。
新しく農薬を登録するには、4項目36もの試験をクリアする必要があります。
【試験内容】
(1)薬効に関する試験成績
適用病害虫に対する薬効に関する試験成績
(農作物等の生理機能の増進又は抑制に用いられる薬剤にあっては、適用農作物等に対する薬効に関する試験成績)
(2)薬害に関する試験成績
ア 適用農作物に対する薬害に関する試験成績
イ 周辺農作物に対する薬害に関する試験成績
ウ 後作物に対する薬害に関する試験成績
(3)毒性に関する試験成績
急性毒性を調べる試験
ア 急性経口毒性試験成績
イ 急性経皮毒性試験成績
ウ 急性吸入毒性試験成績
エ 皮膚刺激性試験成績
オ 眼刺激性試験成績
カ 皮膚感作性試験成績
キ 急性神経毒性試験成績
ク 急性遅発性神経毒性試験成績
中長期的影響を調べる試験
ケ 90日間反復経口投与毒性試験成績
コ 21日間反復経皮投与毒性試験成績
サ 90日間反復吸入毒性試験成績
シ 反復経口投与神経毒性試験成績
ス 28日間反復投与遅発性神経毒性試験成績
セ 1年間反復経口投与毒性試験成績
ソ 発がん性試験成績
タ 繁殖毒性試験成績
チ 催奇形性試験成績
ツ 変異原性に関する試験成績
急性中毒症の処置を考える上で有益な情報を得る試験
テ 解毒方法又は救命処置方法に関する試験成績
動植物体内での農薬の分解経路と分解物の構造等の情報を把握する試験
ト 動物代謝に関する試験成績
ナ 植物代謝に関する試験成績
二 家畜代謝に関する試験成績
環境中での影響をみる試験
ヌ 土壌中動態に関する試験成績
ネ 水中動態に関する試験成績
ノ 水産動植物への影響に関する試験成績
ハ 水産動植物以外の有用生物への影響に関する試験成績
ヒ 有効成分の性状、安定性、分解性等に関する試験成績
フ 環境中予測濃度算定に関する試験成績
ヘ 農薬原体の組成に関する試験成績
(4)残留性に関する試験成績
ア 農作物への残留性に関する試験成績
イ 家畜への残留性に関する試験成績
ウ 土壌への残留性に関する試験成績
上記の試験では、人体や作物、環境や生態系への残留・悪影響が出ない基準値を設けて行われています。
「一定量を一生にわたって摂取し続けても影響なし」と認められた場合のみ、農薬として使用可能になります。安全性は非常に高いと言えるのではないでしょうか。
ただ日本の基準値が世界的に見てどの程度なのかは、栽培する作物や気候、食べる食品や量、人の体質などが国によって異なるため一概には言えません。
農薬の使い方は農薬取締法で定められている
農薬の安全性は、定められた回数・濃度・作物・時期などの使い方をしっかり守られていることが前提です。
農薬使用者が使い方を守っていなければ、ここまで見てきた安全性もまったく役に立ちません。消費者にそれを確かめるすべはなく、不安になるのも当然です。
しかし、この問題もそこまで敏感になる必要はないでしょう。
なぜなら農薬の使い方は農薬取締法によって決められており、守らなければ厳しい罰則が与えられることになっているからです。
「農薬費用がかさむ・犯罪者になる・信用や生活を失う」こんな損しかないことを、あなたが生産者ならしますか?しないですよね。
また農薬の用量・用法は、農薬登録の際に分析された実際の基準値よりもかなりの余裕を持って表示されています。人の口に入るまでには、ほとんどなくなっているでしょう。
そのため使用者が使い方を守っていれば、人体や環境に影響が出ることはまずありません。仮に農薬が基準より多く使われていたとしても、甚大な影響は出ないでしょう。
影響が出ないからといって「農薬の使い方を守らなくてもいい」とはなりません。
生産者と消費者は、信頼関係で成り立っています。農家であっても家庭菜園であっても、農薬を使う以上は使用方法を守る義務があることを忘れないようにしてください。
参考:e-Gov法令検索
まとめ:農薬との向き合い方を考えよう
農薬の危険性は少なく、非常に安全に使えることが分かったでしょう。
しかし「それでも不安」という方は無理に考えを変えず、有機栽培などで作られた野菜を購入してください。
有機栽培などがあまり普及しない理由は「かかる労力に対して、作物の価格が安すぎるから」に尽きます。同じ労力で同じだけの生産性が確保できれば、多くの生産者が農薬を使わない方法を選ぶでしょう。
ただ現状では難しく、消費者が求める「安い・おいしい・きれい・安全」な作物を安定的に作るためにも、農薬を利用するのは当然の結果です。
この問題を解消するには、国による施策ももちろん必要です。しかし何より重要なのは、農薬を使わない栽培の大変さを1人でも多くの消費者が理解し、少し高値でも選んで購入すること。
その行動が生産者の応援になり、農薬を減らすことにつながるのではないでしょうか。